ピアノソナタ第8番「悲愴」第二楽章

L.v.ベートーヴェン / Arr. RIku Fujita

Level-3 ★★★☆☆

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この曲について

「悲愴」は、本当に“悲しい曲”という意味?

ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番 ハ短調 Op.13《悲愴》は、彼の初期を代表するピアノ・ソナタのひとつです。

日本では《悲愴》という題名から、どこか悲しく沈んだ作品を想像するかもしれません。しかし、原題に使われているフランス語のPathétiqueは、単純に「悲しい」という意味だけを表す言葉ではありません。

この言葉には、強く感情に訴えかける、情熱的で劇的、あるいは崇高な感情を呼び起こすといったニュアンスがあります。

実際、このソナタの中心となるハ短調は、ベートーヴェンの時代には悲しみだけでなく、怒りや激しさ、情熱といった強い感情とも結び付けられていました。特に第1楽章は、重々しいGraveの序奏から激しい音楽へと進み、《Pathétique》という言葉が持つ劇的な性格を強く感じさせます。

そのため《悲愴》という日本語題は広く定着していますが、作品全体を「悲しみだけを表した音楽」と考えるよりも、さまざまな強い感情を内包したドラマティックなソナタと捉える方が、本来の意味には近いでしょう。

ベートーヴェン自身が付けた《Pathétique》という題名

《月光》や《熱情》など、ベートーヴェンの有名なピアノ・ソナタにはさまざまな愛称がありますが、その多くは後世になって付けられたものです。

一方、《悲愴》は事情が異なります。ベートーヴェン自身がこの作品を《Grande Sonate pathétique》と題しており、《Pathétique》という呼び名は作品の成立当初から存在していました。

このソナタは1797年から1799年にかけて作曲され、1799年に出版されました。ベートーヴェンが20代後半、ウィーンでピアニスト・作曲家として名声を高めていた時期の作品です。

作品は、若きベートーヴェンを支援した重要なパトロンのひとりであるカール・フォン・リヒノフスキー侯爵に献呈されています。

古典派のソナタとしてのしっかりとした構成を持ちながら、強烈なコントラストや感情表現には、後のベートーヴェンの劇的な作品を思わせる要素もすでに現れています。

激しい《悲愴》の中に置かれた、静かな第2楽章

全3楽章からなる《悲愴》ソナタの中で、第2楽章にはAdagio cantabileという指示が付けられています。

Adagioは「ゆっくりと」、cantabileは「歌うように」という意味です。

第1楽章と第3楽章がハ短調を中心とした劇的な音楽であるのに対し、第2楽章は変イ長調。穏やかな伴奏の上で、非常に伸びやかな旋律が静かに歌われます。

つまり、《悲愴》というタイトルだからといって、第2楽章そのものを「悲しげに」演奏しなければならないわけではありません。むしろ、激しい外側の楽章に挟まれたこの穏やかな音楽があるからこそ、ソナタ全体の感情的なコントラストがより鮮明になります。

現在では第2楽章だけが独立して演奏・編曲されることも多く、ベートーヴェンの最も親しまれている美しい旋律のひとつとなっています。

主題が何度も帰ってくるロンド形式

第2楽章は、よく知られた主題が異なるエピソードを挟みながら何度も帰ってくるロンド形式で書かれています。

大きく整理すると、

A(主題) → B(第1エピソード) → A(主題再現) → C(第2エピソード) → A(主題再現) → Coda

という流れです。

冒頭の穏やかな主題は変イ長調で現れ、その後、短調を含む対照的なエピソードを経験しながら再び戻ってきます。

最後に主題が現れる際には伴奏の形も変化し、同じ旋律でありながら最初とは異なる豊かな響きを聞かせます。一度聴いただけでも覚えやすい主題を中心に、少しずつ表情を変えながら音楽が展開していくことが、この楽章の大きな魅力です。

このクラシックギター・アレンジについて

原曲の第2楽章は変イ長調ですが、このクラシックギター・アレンジでは、ギターで自然に演奏しやすいイ長調へ半音上げてアレンジしています。

参考演奏では通常のチューニングのままイ長調で演奏していますが、ギター全体を半音下げてチューニングすれば、同じ運指のまま原曲と同じ変イ長調で響かせることもできます。

曲の流れは基本的に原曲に沿っていますが、より手軽に演奏できるよう一部を省略しています。

原曲のA → B → A → C → A → Codaというロンド形式のうち、このアレンジでは第2エピソードにあたるCの部分を省略しています。

また、原曲のピアノでは細かな装飾的な音や音型が随所に加えられていますが、このアレンジではできるだけシンプルな譜割りで演奏できるよう整理しています。

ただし、旋律や和声の骨格となる重要な音は可能な限り残し、《悲愴》第2楽章らしい美しさを保ちながら、クラシックギターで無理なく楽しめるアレンジを目指しています。

ワンポイント解説

右手のタッチが、この曲の美しさを大きく左右する

このアレンジを美しく演奏するうえで特に大切なのが、右手のタッチです。

テンポがゆっくりしており、旋律や内声の一つひとつの音がはっきりと聞こえるため、右手に余計な力が入り、音が硬くなったり粗くなったりすると、それがそのまま演奏全体の印象に表れてしまいます。

特に静かな部分では、弦を強く叩くように発音するのではなく、十分にリラックスした状態で、柔らかく芯のある音を作ることを意識してみてください。

まずは音量よりも、一音一音の音色を揃えることを優先すると、この曲らしい滑らかな響きを作りやすくなります。

内声は控えめに、メロディを自然に浮かび上がらせる

この曲では、主旋律の下で内声や伴奏が静かに動き続けています。

すべての音を同じ強さで弾いてしまうと、内声が前へ出すぎて主旋律が埋もれ、音楽全体が重たく聞こえてしまいます。

主旋律は歌わせ、内声や伴奏はそれを支えるという音量のバランスを常に意識してください。

右手のそれぞれの指を完全に同じ強さで動かすのではなく、「今どの音を一番前に聞かせたいのか」を考えながらタッチを調整すると、旋律が自然に浮かび上がります。

静かな曲でも、ずっと弱く弾かない

穏やかな曲だからといって、最初から最後まで同じ弱い音量で弾いてしまうと、音楽の展開が平坦になってしまいます。

フレーズが高まっていく部分では少しずつ音量を増やし、落ち着いていく部分では再び音量を抑えるなど、旋律の流れに合わせて自然なダイナミクスを作ることが大切です。

原曲の第2楽章も、静かなAdagio cantabileでありながら、音楽が常に弱いまま進むわけではありません。主題が再び現れるにつれて伴奏も豊かになり、音楽には自然な高まりが生まれます。

強く弾くときこそ、力まない

音量を出したい部分では、右手に力を入れて弦を強く叩いてしまいがちです。

しかし、この曲では音量が大きくなっても、音色そのものが硬くなりすぎないことが重要です。

強い音を出すときも手や指を固めるのではなく、リラックスした状態を保ちながら、弦へ伝えるエネルギーを少し増やすようなイメージで演奏してみてください。

弱い音では柔らかく、強い音では豊かに。それでも音色の美しさは失わない。このバランスを意識することが、《悲愴》第2楽章らしい歌うような演奏につながります。

曲の基本情報

作曲者
L.v.ベートーヴェン
編曲者
RIku Fujita
難易度
Level-3 ★★★☆☆
チューニング
Regular Tuning
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